小径ドリル式表層強度試験器による構造体の強度分布評価

Strength Distribution Evaluation of Structure
by Small Diameter Drill-type Tesing Machine

長谷川哲也,中島尚吾
1. 構造体の表層劣化とは
@れんがや石材の塩類風化
 れんがや石材は経年により表面から劣化が進行して行きます。
写真1 はテラコッタの劣化です。下部が溶けたように見えます。写真2は御影石の劣化です 表層から紙を剥がすように劣化しています。 写真3はれんがの劣化です。所々のれんが が溶けたように見えます。これらのような表面の劣化は塩類風化と呼ばれています。劣化を評価するには表面から内部に向かった断面方向の強度分布を把握することが必要です。

Aコンクリートの表層劣化
 
写真4はコンクリート塀の柱の劣化です。部分的にセメント分が溶けて骨材が見えています。
 
写真5は岸壁の天端の写真です。隣あったコンクリートは工期が同じにもかかわらず片側(上側)はセメント分が流され骨材が見えています。
 なぜ,このような違いが起きたのでしょうか?
 この現象を評価するには表面から内部に向かった断面方向のセメントペーストの強度分布を把握することが必要です。

2. 表層強度試験器による劣化の評価方法
 我々は構造物の表層から内部へ向けての断面方向の強度分布を計測する目的で小径ドリル式表層強度試験器を開発した。
 
図1に試験器のイメージ,写真6に試験器の全体写真を示す。この試験器は常に一定の回転数および押す力で被測定体をダイヤモンドビットで削孔し,その先端変位を1秒毎に記録してゆく。その計測結果は削孔時間を横軸に削孔深さ(先端変位)を縦軸にとれば硬い(削孔抵抗が大きい)ものはグラフの勾配が緩く,弱い(削孔抵抗が少ない)ものは傾きが急である。この傾きがそのビット先端の強度を表している。(図2参照)

3. 研究の進捗状況
 この試験器を用いた計測は,れんがやテラコッタなどでは良好な結果が得られている。図3はテラコッタに含浸強化剤を塗布して,その効果を確認したものである。この図の赤いラインはテラコッタの素地で破線がエポキシ樹脂を含浸させた部分であるこれによれば約1oまでは勾配が緩くその後は素地と同じである。イソシアン酸エステルシリコンコポリマー系の材料を塗布した部分が黒く太い実線である。この材料はエポキシ樹脂よりは強度(削孔抵抗)は小さいものの約8o程度まで含浸強化している。
 このようにれんが等の均質材料に対し相対評価は信頼性の高い結果が得られることが解った。

4. 今後の課題および予定
 今後は,均質材料の絶対評価および複合材料の絶対評価を行うべく,努力を続けていきたい。

【参考文献】
1)長谷川哲也他:構造体の表層部強度を推定するための携帯用測定機器の開発,日本建築学会東海支部研究報告集,第41号,pp.121-124,2003.2
2)長谷川哲也他構造体の表層部強度を推定するための携帯用測定機器の開発,日本非破壊検査協会シンポジウム,コンクリート構造物の非破壊検査への期待論文集,VoL.1,pp.107-114,2003.7
3)太田福男他:コアドリルの送り難易度による表層コンクリートの圧縮強度推定に関する実験的研究,日本建築学会東海支部研究報告集,第37号,pp.65-68,1999
4)太田福男他:コアドリルの送り難易度による表層コンクリートの圧縮強度推定に関する実験的研究,日本建築学会東海支部研究報告集,第38号,pp.53-56,2000
5)湯浅昇他:引っかき傷によるコンクリートの圧縮強度試験方法の提案,日本非破壊検査協会シンポジウム,コンクリート構造物の非破壊検査への期待論文集,VoL.1,pp.115-122,2003.7
6)和藤浩,王暁梅,畑中重光,谷川恭雄:劣悪コンクリートの簡易診断方法に関する実験的研究,コンクリート工学年次論文集,Vol.20,No.1,pp.341-346,1998.6

写真1 テラコッタの劣化
写真2 御影石の劣化
写真3 れんがの劣化
写真4 コンクリートの劣化(塀の柱)
写真5 コンクリートの劣化(岸壁の天端)
図1 試験器のイメージ
写真6 小径ドリル式表層強度試験器
図2 削孔深さと削孔時間の関係
図3 計測例(テラコッタ)